最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)2518号 判決 1956年7月17日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人井本常作、同井本良光の上告趣意第一点(一)乃至(三)について。
原判決が維持した第一審判決の判示第二によれば、被告人は落合武等四名と共に加藤貞作方に至り、被告人において同人に対し、「……今日はばらしに来た。表に五人許り乾児がドスを持って来ている。こんな家は目茶苦茶にばらしてやる。お前の兄貴も刺してやる。生かしては置けぬ。」等と申し向け多衆の威力を示して脅迫した上、同人の右居宅玄関硝子戸を蹴飛ばしてその硝子二枚位を損壊したというのである。してみれば被告人は多衆の威力を背景としこれを利用して脅迫したものであること明らかであるから、原判決の維持した第一審判決がこれを暴力行為等処罰に関する法律一条一項にあたるとしたのは正当であって、所論援用の各判例に反するところは少しもない。論旨は事実誤認を前提とする判例違反の主張であって採用できない。
同第一点の(四)について。
論旨は暴力行為等処罰に関する法律一条にいわゆる「多衆」の解釈について判例違反を主張するけれども、所論援用の各判例の中大審院大正二年(れ)第一五五八号の判決は、刑法一〇六条の「多衆」の意義について判断を示したものに外ならないから、本件に適切でなく、その他の各判例は「多衆」の意義について判断を示したものでない。論旨は理由がない。
同第二点について。
論旨は量刑不当の主張であって適法な上告理由とならない。
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)